長い旅から帰ってきたような気分で、また日々の施行をやりこなす。「サンデー」用に読み始めた宮本輝『野の春』は、大河小説「流転の海」の完結編。なにしろ長編だから、ざっと読んで勘所をつかめばいい、と思ったが、たちまち惹き込まれ熟読する。大阪駅前ビルが建つ前、まだ戦後復興の名残りが残る大阪。インテリは登場せず、みな地に足つけて、もがきながら生きた人たちばかり。見開き二ページに一つ、人生の名言あり。知合いのお母さんが、このシリーズを楽しみに読み続けている、と聞いたが、なるほど。
素描展最終日、午後しばらく来客がなく、高橋「白い扉」秀幸さんにことわって、近所を散策。教えてもらった、小高い丘の上にある稲荷神社を詣でる。長い石段の下で、犬を連れた老女が、拝むでもなく、ただぼうっと立って登り口を塞いでいる。石段を上るのに邪魔で、除けて通ったら、犬が吼えながら飛びついてきた。それでも、女は、なんにも言わないで身動きもしない。ちょっとぞっとする光景だ。石段の上に無人の神社。境内一部がゲートボール場になっている。赤い幟が無数に風に翻っている。色づいた落葉が散らばり、神韻たる空気に包まれている。眼下は建て込んだ住宅街だ。スマホに高橋さんから「来客あり」と着信があり、帰りは別の石段ではない坂路を降りたら、さっきの石段にいた女と犬がまだいる。夢のなかのできごとのようであった。