サンデーで本えらびの日。午前中にサンデーの原稿を送付。この週一の仕事が、ライターとしての自分を支えている。なくなったら、どうなるだろう。
リニューアルした「生活考察」、某匿名コラム、「赤旗」試写室の「NHKスペシャル/未解決事件」の原稿も送る。こうして書くと、商売繁昌のようだが、税金も払えない低空飛行を続けている。神風が吹かないだろうか。与えられた仕事を、一つひとつ丁寧に、ぼくらしさを出してやっていくしかない。今月は、あと「潮」「週刊現代」からの依頼書評原稿がある。新聞購読をやめようかと思う。
少し早く家を出て、音羽館ヒロセくんにもらった「阿佐ヶ谷ラピュタ」の招待券で、佐分利信監督「心に花の咲く日まで」を見る。満席に近かった。「失業中の夫と、ミシン踏みで生活を支える妻。赤ん坊を抱えて家計は火の車だが、ささやかな楽しみと前向きな明るさで苦労を乗りこえていく」という話。いい話である。家賃も二つ溜り、風呂へ行くにも、10円しかなく、5円を鏡台の引き出しから見つけ、ようやく「あなた、行ってらっしゃい」と夫(芥川比呂志)を送り出す。妻(淡島千景)は、冬とはいえ5日も風呂を我慢しているが、稼ぎのない夫を優先するのだ。映画は昭和30年の公開。風呂銭は15円。ラーメン40円、コーヒー50円だから、だいたい現在の金銭感覚で10倍すればいいか。風呂銭はむかし、安かった。
隣りに住む杉村春子仲谷昇姉弟に近い歳の差の夫婦(籍は入れてなさそう)で、仲谷は冷たい色男だからモテるクズ男。淡島にもちょっかいをかける。小説家を自称し、芥川賞を目指している。芥川比呂志の前で、その話をするのは楽屋落ちふう。二人が住む木造あばら屋は、それでもつなぎの一軒家で三間はあるか。野と畑が広がる郊外風景で、鉄道が通っている。小田急線の梅が丘とか豪徳寺あたりだろうか。自分の身に重ねて、ときどき、グッと胸に迫るシーンもあるが、ちょっと109分をつなぐには弱い。ところどころ、ウトウトと眠りに落ちてしまった。文学座総出演の制作で、若い若い加藤治子が登場。芥川のかつての同僚(造船会社)で、ともにクビになり、今はスルメの行商をしているのが宮口精二。わびしく出されたケーキを美味そうに食う。お金を貸してあげたいが、淡島・芥川にそんな余裕はない。つい、夫のために買ってきた煙草一箱を「これでも」と手渡す。芥川は喉から手が出るほど欲しい(火鉢のしけモクを漁るほど)煙草だったが。日本映画には貧乏がよく似合う。
サンデーで、これを待っていた、新潮クレストのトム・ハンクスの短篇集『変わったタイプ』をチョイス。いつも、まとめて家に宅急便で送ってもらうのだが、来週締め切りが早まることもあり、これだけ、カバンに入れて帰る。地下鉄車内でちょっと読んだが、いや、面白いですよ。「サンデー」で取り上げた『原民喜』書評で、編集者と著者の梯さんからお礼のメールが届く。うれしいなあ。