この夏、いちばん心に残ったできごとは、前も書いたが、玄関先にヒマワリが咲いたこと。これは春先、玄関の門柱上にトリのエサとして、ヒマワリの種を毎朝置いていたのだが、その種が地面に落ち、そのうちの一つが、アスファルトの裂け目から発芽し、成長して花を咲かせたのであった。思いがけないことだった。なんだか、いとおしく思えてくるのだった。一メートル強ぐらいの高さのいちばんてっぺんに大輪、そして、遅れて、いくつか小さな花を咲かせた。それを観察するのが楽しみであった。そのことを、何人かに喋ったと思う。「来年もまた、咲くといいんだけど」と言うと、ある女性が、「たしかヒマワリは一年草で、来年はもう咲かないんですよ」と教えてくれた。少しショックを受けた。そんなことも知らないで、60年も生きてきたのか。
黒沢清ニンゲン合格」を、どんな映画か知らないまま見て、ああ、これは確かに黒沢映画だと思う。10年を昏睡状態で空白期にあり、甦った主人公(西島秀俊)が、父親の友人(役所広司)と暮らし始める。西島が夜中、彷徨する露地の町が、電柱の住居表示を見ると「柳原」だ。北千住の東側。もと遊郭のあったラビリンス。西島は「堀切中学校」の卒業生で、同窓会を主催するのだが、堀切中学は実在して、しかし荒川を越えた葛飾区にある。同窓会の帰り、夜中、友人とシャッターの閉まった「国見古書店」の前に立ち、忍び込み、マンガを盗むシーンがある。閉まっているとはいえ古書店が登場する映画である。じつにあっけない終わり方をする不思議な映画である。
野口冨士男『「流星抄』のカバーに高梨豊撮影の、菱形飾り窓の、遊郭っぽいドアの写真が使われていて、カバー袖に牛乳箱であろうか「八千代町販売所」の文字が見える。その脇に、かすれているが「文京区八千代町四五」と見える。この町名はいまはなく、いつも参照する「昭和35年東京都区分地図帖」で確かめると、現在、小石川一丁目の地番24~28の、非常に狭い区画だと分る。𨨞のような形をしている。「八千代町」は、その隣り、旧町名で言えば、柳町に「八千代児童遊園」として残されている。で、今日舞い込んだ情報で、「pebbles books」という、元「あゆみブックス」の書店員が、新たに9月半ばから書店をオープンさせると知ったが、それがなんと、今日、あれこれ探索していた「八千代町」の隣り町、旧「柳町」だと知る。「柳町」は、八千代町に接する「柳町小学校」に名前の痕跡がある。シンクロにドキドキする。一度、この辺りを歩きたい。涼しくなったら。ネギさんの勤める「東洋大」からも近い。あ、伝通院からも近い、ですよ。