しずかな61回目の誕生日の朝を迎える。すべて世はこともなし。枕元にあった、創元文庫、佐藤春夫『新編 退屈讀本』の表紙がはがれかけ、接着剤で補修、包装紙のカバーをかける。油染み、汚れあり、よれよれのこの版になぜか愛着あり。昭和27年の再版だが、定価一一〇円がゴム判で消され「奉仕定価 九〇円」とある。「奉仕定価」とは何だろう。これは、どこの古本屋、古本市で買ったものか。値段票の剥がし跡が数カ所。表紙裏には「20-」とエンピツである。しかし、もちろん20円で買ったものではない。
「夏の夜です」という文章は、「おもちやのやうな物干へ出て、花散りうせた薔薇の鉢を、もつと夜露のかかるところへ置きかへたのです。/睡蓮は有香白色の夜開花種でなくては駄目ですよ」と始まる。じつに、なんとも洒落た書きっぷりだ。
今日は仕事をしたくないが、そうもいかない。せめて、昼飯を、少しだけぜいたくしようか。