国立さんぽの際、「ド」で読み用に「ブ」で講談社文芸文庫の戦後短篇シリーズ『変貌する都市』を買って、最初の織田作之助「神経」を読み始めたら、最初のページから線引き、書き込みだらけ。ほかの短編にはないから、おそらく大学の授業のテキストとして使われたのだろう。やたらに読みがな、注が書き込んである。戦後の大阪が、店名など実名で書かれた都市小説だが、いきなり「レヴュ放送」で、いまの女子学生はつまずいている(文字で女子とわかる)。東京の新宿ムーラン・ルージュ、浅草のオペラ館、あるいは千日前のピエルボイズ、徳川夢声など、いまの大学生にはちんぷんかんぷんのはず。これを取り上げた先生、何を教えようとしたのだろう。
京都も出てくる。織田作らしき主人公が宮川町の廓に上がり、廊下から川面を見つめている。「京阪電車のヘッドライトが眼の前を走って行った」とある。かつては、川沿いから地上を走る京阪電車が見えたものだ。
大阪では「波屋」が出てくる。いまもある著名な大阪の書店である。ウザキスミカズ書皮で有名。大正年間の創業。創業者の芝本参治が実名で登場。このあたりのこと、林哲夫さんがくわしい。ぼくは記憶で書くから、間違いがあるかもしれない。すいません。とにかく「神経」は有力な戦中戦後大阪の都市文献としても読める。ただ、エンピツのラインを消しゴムで消してたら、文字が薄くなってしまう。活版印刷の本なら、こんなことはないのだが。