いつか聴いた歌

三菱鉛筆 ゲルボールペン ユニボールシグノ RT1 UMN-155-28 黒 24」の替芯10本入りをアマゾンで注文する。0・28㍉という微細な文字が、スラスラと遅滞なく、均質な黒で筆圧入らずでどこまでも書ける、史上最強のボールペンである。これを使い出すと、これまであれこれ試したボールペンでデッドストックとなった数十本をすべて廃棄したくなる。ぼくが手帳などに文字を書いていると、よく人に「これまた、小さい字ですねえ」と言われるが、それを可能にしたのが、このボールペンである。インク漏れも、ボテもないのだ。0・5もあるが、イヤに太く感じられるほどだ。
ハヤカワ文庫のデンマーク警察小説、ユッシ・エーズラ・オールソン『特捜部Q』を読み始め、もうすぐ終わる。地下に屈辱的な条件で数年も監禁されっぱなしの女性(2002年から始まる)、不運な事件で仲間を失い、すっかりやる気を失い(妻は別居)というしがない刑事が、たった一人(素人の変な、しかし優秀な部下が一人)で「特捜部Q」というでっちあげの新部署で過去の事件を2007年から追う(こちらも屈辱的な地下室)。おそらくだが、この2002年と2007年がいずれ交叉する。そこへ向けて読者は引っぱられていくわけだ。
12月29・30日の2夜、NHKFMで、和田誠(聞き手・阿川佐和子)「いつか聴いた歌 ザ・ヴォイス フランク・シナトラの軌跡」を、たっぷり楽しむ。いや、楽しい放送でした。なぜ録音しておかなかったか、いま頭をかきむしっているぐらい。長年シナトラを聴き続けてきた和田誠が、阿川佐和子の巧みな聞き出しによりシナトラについて語り、シナトラの歌唱が聴ける。余計なことは何もしない。必要なことはすべて揃った、充足しきった放送だった。これを聞き逃さなかったのは、スマホでよくラジオを聴くようになったおかげだ。しかし、シナトラの歌のうまさは圧巻であった。自由自在に音量も表現もコントロールできる声。歌詞が終わったあとに、喉の調整で微妙に音を変化させた時は、聴いていてゾクゾクとした。
よく見聞きし、よく読み、よく喋り、よく動く。こうして2015年が終わろうとしている。