『「本屋」は死なない』全面支持

今日、午後、昼寝したら3時間近く眠ってしまった。脳が溶け出しそうだ。
石橋毅史(たけふみ)『「本屋」は死なない』(新潮社)読了。おもしろかった。ジュンクの福嶋さん、イハラ・ハートショップの井原さん、元さわや書店の伊藤さん、定有堂書店の奈良さん、ちくさ正文館の古田さんなど、書店業界でよく名前の挙がる書店員への取材ルポと言ってしまえばそれまでだが、元「新文化」の編集長、石橋さんは、手慣れたはずの取材を、わざと素人っぽく、愚直に、おずおずとジャブを繰り出しながら対象に迫っていく。状況論など、大上段から構えた論評はいっさいない。自分の体感を重視して、納得いくまで店に居座るし、延泊も辞さず、地元で滞在して、本を巡る「人」のあり方を問うていく。たいへん、好感の持てる取材法で、ときにじれったいと思えるほどだ。
それに、この本の主軸を、大手書店の店員を務めた「ひぐらし文庫」原田真弓さんに置いているのも、たいへん面白い。しかも、やたらに持ち上げるということもせず、ときに疑問を呈しながら、彼女の動向と意見に根気よく付き合っている。原田さんを紹介する第一章が「抗う女」と題されているのも、この本が、危機的状況にある書店、出版社、取次などの出版システムに対して、本を手渡す作業を真剣に考える一つのスタイルとして、原田さんの動きを定点観察していることがよくわかる。
私小説的アプローチ、というのは、ぼくの最大の褒め言葉と受け取ってほしいが、『「本屋」は死なない』にもそれを感じた。業界紙の編集長まで務めた著者だから、もっとスマートに、割り切って、数字を並べて本屋のいまを伝えることは、たやすかったろう。しかし、石橋さんは、自らの運転で車を飛ばし、途中、目につく限り本屋(チェーン店を含む)をチェックしながら、目当ての本屋を訪ねる。ちょっと、ロードムービーの味もあるのだ。
マスコミにとかく取り上げられがちな、東京のあの書店(僕と風貌がかぶる)へ井原さんを案内し、自分はどうしても納得いかず、苦りきった顔をしているのを、井原さんに指摘されるシーンは、よくわかるだけに、ゲラゲラ笑いながら読んだ。
大阪・中崎町の「本は人生のおやつです!!」へも行っている。ぼくは、この店の開店に、いささか、薄くではあるが関わっているので、ここも興味深く読んだ。へえ、がんばってるんだ。
取り上げられた書店員の風貌が、どれも魅力的に描かれているのもこの本の長所だし、浮かれて、書店員を持ち上げていないことにも、繰返しになるが好感が持てた。あちこちへの移動と宿泊費を考えれば、よほど売れないと、取材費の回収は難しいと思うが、出す意味のある本はいまの時代でそんなに多くない。石橋さん、よくやったなあ、と読後、まず思った。帯の背に「〝あきらめの悪い〟「本屋」たちを追う」とあるが、これは名コピー。「あきらめの悪い」人生を送りたい。本気でそう思った。勇気づけられた。愚痴を言うだけの、努力をしない本屋は、消えても仕方ない。それは、ほかの仕事でも同じじゃないか。

ラジオ深夜便」で四日連続、出演するが、一緒にかける曲を、選んでいいと言われたので、以下の四曲をリクエストした。
松任谷由実「丘の上の光」、井上陽水「長い坂の絵のフレーム」、クレイジーケンバンド「せぷてんばあ」、矢野顕子「やませ(東風)」。