暗い渡世だ

また、このところ、重なって、謝礼は払えないが原稿を書いてくれという依頼がいくつかあり、めまいがする。そんなのは大学で教えている人やテレビに出ているような人に頼んでくれ。ぼくらのようなライターに錬金術はなく、原稿を書いて、それでお金をもらう以外に収入源はない。
なかに勝手に過去に書いた原稿をコピーして、あれこれ書類を入れて(もし全部に目を通したら、大変な手間だ)、こういうことだから書類にサインと必要事項を書き込んで再録に承諾してくれ、というのがあって、謝礼は払えない。なお、承諾してもらえないときはその理由も書き入れ、判をついて送り返せという。気絶しそうになった。そのまま握りつぶしてもよかったが、返事をしないと連絡してきそうなので、渋々、書いて返した。もちろん再録には応じない。そしたら、ハガキが来て「このたびは承諾してもらえなかったがうんぬん」とある。そんな手間や郵便代があるなら、少しでもいいから払え、と言いたい。
よく仕事をしている人からの頼みなら、まったく別なのだが、書面だけで初めての依頼がこれじゃあ。
一つは仲立ちをする人があり、その人から連絡があり、よく知っている人なので承諾したら、正式な依頼書があり、そこで初めて原稿料は出ない、と知る。すぐその正式な方の連絡先へ電話したが、鼻で木をくくったような返事。「原稿料についてはこちらは関知していないので、うんぬん」。
世の中に、仕事をした代価というものがあり、そのなかで原稿料ほど軽視され、ないがしろにされているものは珍しいのではないか。書かせてやっている、という意識がまだどこかにはびこっているのか。
ここしばらく続く年末進行を前に、まったくやる気を失う。暗い渡世だ。

連日、菊池寛について調べ、読む。天下の田舎者が、なぜモダン都市東京を代表するような小説が書けたか。愛人にして私設秘書・佐藤みどり。この妹の子供が、あの「話の特集矢崎泰久だ。『口きかん』にくわしく書かれている。