金子彰子さん詩集「二月十四日」

okatake2009-09-30

うかうかしていたら、秋も深まって、9月も終りだ。雨のなか、午前中、郵便配達が速達でえす、と金子彰子さんの詩集『二月十四日』を届けにきた。
手作りだが、思いのじゅうぶんこもった、白い詩集だ。金子さんは「水」の詩人で、あちこちに水分が貯えられている。「二月十四日」の最終連「涙」もその一つ。
「五輪の日」にも、第一連「船頭(おばあさん)の笑顔が/ハレーションをおこして手招きしているのに/水閣はぼんやりとしたみどりの中だ」と、「水閣」という耳慣れない、しかしイマジネーション豊かなことばが使われる。
また、「ピーナツの時間」の最終連「消息は/しらないでいいのだ/いつかのいつかも/曇天の中」にあるように、少し寂しい世界に、いつも明るいあきらめが支配している。人肌のことばづかいが、詩の向うに、日々格闘する生活を想像させる。食べ物もよく出てきますね。くいしん坊かしらん。

印象的な一篇を引く


「遍路」
ここに立って
何を仰いで目指したのか
石段を踏んで
年月を積んだとて
この道は
木もなく
声もなく


腰を下ろせば
石ころと
同じくたたずむ


空は脂気のない地面なのか
息することもやがて
意識にないほど
かたちもなく
霧にまみれる


「空は脂気のない地面なのか」という一行がすばらしい。
詩をたくさん読んできた者として責任を持って言うが、金子彰子さんは第一級の詩人で、これからも書き続けてほしい。お手伝いできることはないか。この詩集も多くの人に読んでほしいが、手作りだから量産はきかないだろう。山本と相談せねばならないが、希望者が多いようだと、スムース文庫から再度、詩集として出すということはできないか。


今日は、音羽館の広瀬くんに買い取りに来てもらった。「メリーゴーランド」「善行堂」へ送る本を取り分けながら、それでも、えい! どうじゃ! と気合いで本を抜いていく。小沢書店の本も大事に並べていたが、ごそっと持っていってもらう。後藤明生古井由吉もおさらばだ。河出の世界文学全集も新潮クレストもみんな売っぱらった。考えていると迷いが出るので、「音羽館」向けと的を絞って、引きちぎるように1000冊をリビングに運んだ。それをCSで「赤頭巾ちゃん気をつけて」を見ながら、広瀬くんが手際よくしばっていく。体力の限界で、1000冊だけしか出せなかったが、年内に、もう一回、膿を出すことにする。