「ちくま」ラスト

年老いたシェパードが遠くへ行く日
細いむくろを風がふるわす
人はなくしたものを胸に
美しく刻めるから
(「何もなかったように」松任谷由実


「ちくま」最終回(14回)、山猫館、水野真由美さんをやっと脱稿。父と娘の話にしぼった書き方になった。そうでもしないと、とても収まらない。いつもそうだが、あまり計画をたてずに、自分の身に沿って、相手まかせというかたちで書き進む。先はほとんど見えていない。ところが、最後、なんとか着地点を見い出し、最後の最後にストンと落とす。そこに20枚近い長編の文章を書く快感がある。
本になった時、たぶん「あとがき」に書くことになると思うので、くわしく書かないが、この連載は、「女性古書店主たちに書かされた」という思いを強くしている。水野さんにも、打ち上げの席で「この連載だけ、岡崎さんの文体が変わってますね」と言われたが、それはあまり意識していない。女性たちの生き方の凄さに圧倒されながら、それをいかに受けとめ、文章として成立させていくかが、毎回、闘いだった。
毎月、14回、そんなに締めきりも迷惑をかけずに(と、思ってるが)、14名の人生につきあって、どうにかこうにか形にしたことは、自分でも自信になった。これからも、人物の聞書きはやっていきたい。注文があれば、の話だが。とにかく終ってほっとした。フルマラソンを完走したような気分である。
今回は、水野さんの句を、小見出しのように引用するスタイルを取ったが、紹介しきれなかった句を一つ。

口開けて月を見てゐる博打打ち

お待たせしましたが、これで、たまっていた他の書き下ろし等、少し身を入れてやります。こうなると60ぐらいまでは、なんとか生きたい、という欲も出て来た。
ハンフリー・ボガート主演「ハイ・シェラ」をDVDで見る。凶悪犯のボギーが、娘くらいの年の、足の悪い女の子にめろめろになるというのが、どうも。