小磯良平「斉唱」

台風が関東からようやく遠ざかる。一日中、家に閉じ込められる。
朝、日曜美術館小磯良平戦争画。とくに「斉唱」について、その謎に迫るというのがおもしろかった。
丸谷才一が『男ざかり』というエッセイ集のなかで、こんなふうに書いている。
小磯良平の「斉唱」といふ油絵は、十人ほどの少女が譜面を手にして合唱してゐるところを描いたものだが、その十人ほどがまるで姉妹のやうにそつくりで、不思議な気がした。あれは同じモデルを使つて描いたのだらうか」
ぼくも前から気になっていた。「斉唱」の制服に身を包み口を開き歌をうたう少女たちの顔がみんな似通っていることを。
答えが今日わかった。あれは、二人の少女をモデルにいろんな角度からデッサンして、それを構成したものなのだ。しかも、じっさいに、少女たちに絵と同じようなかたちに並ばせ写真をとったところ、真ん中の黒い制服の四角の部分で絵の視線の角度が変わっていることもわかった。小磯のデッサン力は神域に達したもので、瞠目する。しかし、あんまり巧すぎて、そのことがちょっと絵をつまらなくさせているということはないだろうか。「斉唱」は素晴らしいということを前提に。
先週、締めきりがあり、編集者がこれを読んでいると思うと書けなかったが、CSのTBSチャンネルで、山田太一高原へいらっしゃい」(田宮二郎主演)を夜11時から2本ずつ見るのがこのところの楽しみだった。