どこか遠くへ ここではないどこかへ

朝から、辻原登円朝芝居噺 夫婦幽霊』講談社の書評を書き上げて、なんとか一息つく。4月半ばに刺青を入れたみたいにスケジュールノートが埋まり、うんうんうなりながら、突き進む。そのあとぐったりきた。週末、妻が金沢旅行をしており、娘と二人の生活をする。厳しく指導する母親がいなくて、娘は羽根を伸ばし、ちょっとトロンとしている。妻にとっても、娘にとっても、たまにはいいかもしれない。ネコは保護者が急にいなくなって寂しがっていたが。
五反田だけが、五反田だけが〜と、これは「風」の「おまえだけが」のメロディーで歌いながら、定時に五反田古書会館をめざす。ぜんぶで4000円くらい買ったかな。ナンダロウさん、黒岩おひささん、古本屋志望カタギシさんと戦利品抱えてお茶をする。いつから古本屋やるの? とナンさんが聞くと、「いま修行中で」とカタさん。そこで「修行なんてやらないほうがいいと思うよ。いまのままで行ったほうがいいよ」とナンさんが珠玉のアドバイスをする。あとでおひささんが、「あんなに若くて可愛い子が古本屋をやりたいなんて……」と、ためいきのように語っていたのが印象的だった。
ぼくは五反田で例によって200円パーでごちゃごちゃ買う。ダットサンのパンフとか、昭和30年代らしき「鳩バス」パンフとか、マンガ付録の貝塚ひろし『くりくり投手』(絵がへたやなあ)とか諸々。昭和29年の小学5年の理科の教科書も買ったな。
近代(こだい)ナリコさんのエッセイ集『どこか遠くへここではないどこかへ 私のセンチメンタルジャーニー』(ディスカバー)が届く。まっ四角ぽい可愛い本だ。なかは、例によって卓見、創見がちりばめられている。関東人でいまだ京都弁が喋れないナリコ嬢は、タクシーに乗ると旅行者と間違えられて、そのふりをするとか。京都の上空には飛行機が飛ばない、なんて指摘はハッとする。たしかに、な。そんなこと誰も言ったことがないが、重要な京都論だ。すんげえ人だ。
工作舎の石原さんを介し、コウジ・ゴトウというピアニストのジャズCDが送られてきて、聞いている。気に入っている。音の粒がまろやかで、リリカルな音調はぼく好み。同時期に買った上原ひとみ、ちゅう海外で注目されているという話題のピアニストのは、がしゃがしゃしてて、わたし、こんなにパワフルにテクニックがあって弾けるのよって感じがイヤだなあ。これはあくまで好みの問題。
今週はいよいよ、27日が仙台「火星の庭」のイベントで、29日が千駄木一箱古本市」だ。ぼくは家族と、もと青空洋品店の「しのばずくん神社」に出店しております。また、お出かけの際は声をかけてくださいましね。