天三のフック船長

名古屋、大阪行きで、なにか書き忘れたことがあったような気がしていた。それを思い出した。メモとしてかきとめておく。山本と天三商店街、天牛と矢野へ向けて歩いているときのこと。「ほら、こんなことがあるからなあ」と山本が言う。なんのことやらと前方を見て、目を疑った。一人の痩身、初老の男性が、肩にオウムを乗せ、一輪車にまたがり、荷物を乗せたカートを押しながらすいすい走っている。一輪車にカートだけでもけっこう見ものだが、肩にオウムはさすがに参った。いいですか、オウムですよ。ほとんど白昼の悪夢だ。しかもその男は、くねくね、あたりを見回しながら走り、じゅうぶん意識しているようだ。くるりと向きを変えて、横道へ消えていったが、周囲の人は、まるで透明人間を見るように、つまり平気でいる。平気でいられる絵ではないのだ。これもまた、すごい。ここいらではすでに見慣れた光景なのか。「こんなん、東京では見られへんやろ」と山本がいう。いや、東京どころか、パリのモンマルトルの丘でも見られないだろう。