で、今日はがんばりましたっつって

昨夜、遅くにCSで是枝裕和「ディスタンス」を見てしまう。「誰も知らない」幻の光」とうなりっぱなしで、とても見逃す気になれなかった。これまた、静かな空気のなかに狂気を秘めた、すごい映画だった。最初、微妙な空気を見せつつ、何も語られないまま4人の男女の生活が描かれ、やがて、この4人がいっしょに山の中の湖を目指す。オウムを思わせるカルト教団が起こした殺人事件。彼らはその加害者の遺族だった。夫だったり、姉だったり、兄だったり。この加害者の視点から「あの事件」の背後をえがくところが、是枝監督、やはりただものではない。
ドキュメンタリータッチ、音楽を廃し、現実音(バイクの音、山の鳥の声など)をそのかわりに拾いあげる。セリフもたぶんちゃんと決まってるわけではなく、俳優の生理に根ざした言葉が交わされる。こんな地味な撮り方、テーマでよく企画が通ったなと思うほど。しかし、たまった原稿をほっぽりだして見る価値はあったと思う。編集者は怒ると思うけど。
で、今日はがんばりました。北海道新聞は、吉江真理子『島唄の奇跡』講談社産経新聞は、山路和広『フライング・ブックス』晶文社の書評を書く。ちゃんと読むと、あれえ、山路くんの本には、日記のところにぼくの名前が出てらあ。『本屋になりたい』で取材にうかがった日のことだ。
午後、ちょっと息抜きで一ツ橋「ブ」へ。阿部昭『人生の一日』中央公論社桂三枝『爆笑落語第全集7』レオ企画長田弘詩集『記憶のつくり方』晶文社などを買う。山田稔の散文集『八十二歳のガールフレンド』編集工房ノアをようやく読み終える。急がず読もうと決めて、急がず読んだのがよかった。一編、一編が良質な散文で、人生のさびしさとともに生きる喜びが静かに描かれている。こういう文章が読みたいんだ、という文章だ。山田さんの文章で、急にマラマッドが読みたくなって、変色した新潮文庫の『マラマッド短編集』を風呂に持ち込み、「最初の七年間」を読むうち、ああ、これはむかし、読んだなあ、とその気分がよみがえる。
夜おそく、教育誌のコラムを書いて送る。土方久功について書く。何を書いてもいい原稿なので、助かるなあ。