朝の寝床で『野呂邦暢小説集成1 棕櫚の葉を風にそよがせよ』(文遊社)から標題作を読む。やっぱりいいなあ。惚れ惚れする文章。川のある土地で、出口のないような生活をする男と、しょせん一緒に生きてはいけぬ絵書きの女、そして戦記もの洋書に入れあげて会社を傾かせる社長と、まず人物がくっきり深彫りされて、それを端正な文章がつつむ。水のイメージ、アメリカの影と、野呂世界を代表するようなテーマも織り込まれる。
宮田昇『図書館に通う』(みすず書房)を読み継ぐ。部分部分で著者と意見を異にするところもあるが、これは宮田の戦後史でもある。